「オリバーツイスト」、「クリスマスキャロル」、ともに19世紀のイギリスを代表する作家、チャールズ・ディケンズの作品です。
この二つの作品に共通しているテーマ、それは貧困です。
そして、これはディケンズ本人の子供の頃の体験が深く影響しているのです。
ディケンズの両親、特に父親は海軍の会計士という、堅実にいけばなんら問題のない職についていました。しかし、生来の浪費癖がたたり、一家は破産。なんと債務者が収容されていた刑務所に収監されます。
ディケンズは学校にも通えず、親戚のつてによって靴墨工場で働かなくてはなりませんでした。
時は産業革命下のイギリスです。家内制手工業から大規模な資本と機械による重工業へと生産形態が変化し、労働力の流入により、都市の人口は急激に増加していました。
まだまだ社会保障や労働者の権利などが確立していなかった当時、急速に進む産業革命は、様々な矛盾を社会に産み出したのです。
その代表的な問題が、安い賃金で過酷な労働に従事させられた少年労働者たちでした。少年時代のディケンズは、まさにそうした体験を強いられたのです。
過酷な労働条件に対して抗議する者も後を絶ちませんでしたが、当時のイギリス政府は、抗議活動で工場の機械を壊した者を死刑に処すなど、今では考えられない厳しい姿勢で対応していたのです。
「オリバーツイスト」と「クリスマスキャロル」によって描かれている貧困とは、正にイギリスが世界一の帝国へと成長する途上で発生した、こうした都市部の問題に他ならなかったのです。
ディケンズが靴墨工場で働いたのは12歳のとき。3年間過酷な労働に耐えた後、15歳のときに法律事務所の事務員となったのでした。
その後ディケンズは独学でジャーナリストの道を目指し、文筆業へとはいっていきました。ディケンズは、極貧から叩き上げた作家であるといっても、過言ではないでしょう。
当時、ディケンズのみならず、貧困をテーマにした作品を手がける作家は多く、また貧困に暗躍する悪党をテーマにした小説はピカレスク小説と呼ばれ、人気を博しました。「オリバーツイストに登場する悪漢たちの描写には、そうした背景もあるといわれています。
「オリバーツイスト」も「クリスマスキャロル」も、共に当時のイギリスの都市問題を知り、そこに過酷にも逞しく生きる貧者の姿をみてゆくうえで、大変参考になる小説であるといえましょう。
ナサニエル・ホーソーンの代表作『緋文字』。 この悲恋物語を通して、読者は清教徒が上陸してきて間もないアメリカへといざなわれます。 夫を裏切り、他人の子を宿した主人公ヘスター・プリンは、キリスト教の厳しい掟によって裁かれ、 […]
2020.12.13 ラダーの扉