第1期オバマ大統領就任演説

President Barack Obama’s Inaugural Addres in 2009

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私、バラク・フセイン・オバマは、合衆国の大統領として、合衆国憲法を保持し、保護し、守るために全身全霊をもって臨み、職務を真摯に全うすることを心から誓います。

市民の皆さん
我々がなすべき仕事を前に、皆さんからいただいた信頼に感謝し、我々の祖先が払ってきた犠牲を胸に刻みながら、私は襟を正して今ここに立っています。ブッシュ大統領の我が国への貢献に、そして政権交代にあたって、終始寛容な協力をいただいたことに、心からお礼を申し上げます。

これで、44人のアメリカ人が大統領就任の宣誓を行ったことになります。宣誓は繁栄の波の高みに、あるいはないだ水のような平和なときになされることもあったでしょう。しかし、しばしばそれは暗雲たちこめる荒れ狂う嵐の真っただ中で行われます。そんなとき、アメリカは、指導者の技能やビジョンによってだけでなく、我々国民一人ひとりが先祖の掲げた理想に、そして建国のときに書かれた書面に忠実であるがゆえに、それを乗り越えてゆくことができたのです。

今までも、そして現代の我々アメリカ人もそうでなければならないのです。

我々が今危機の中にいることは周知の事実です。我が国は戦争の渦中にあり、我々ではどうにもならない暴力と憎悪のネットワークにさいなまれています。経済はひどく疲弊しています。それは、一部の者の欲と無責任の結果であるとともに、厳しい決断を先送りし、新たな時代への準備を怠り続けてきた結果でもあるのです。家は失われ、雇用は削られ、ビジネスの機会は閉ざされてしまいました。我々の健康保険制度はとても高くつき、学校教育もさまざまな失敗に見舞われています。そして、我々のエネルギーの使い方は、敵を富ませ、地球に脅威を与えていることが日々明らかになってきています。

これらの危機は数字や統計で裏打ちされています。測定は難しいものの、それ以上に、国中を覆っている自信の喪失こそが最も深刻な課題なのです。それは、アメリカの衰退は避けがたいという恐れであり、次の世代の人々は目標を下げなければいけないのではという恐怖です。

今日、私は皆さんに我々が直面している課題は現実のものだと表明します。課題は深刻で、数も多い。簡単に解決もできなければ、すぐにどうこうなるものでもないでしょう。しかし、アメリカは、それを克服できるはずです。

今日この日、我々は恐怖ではなく希望を選び、対立と不和ではなく目的を共に分かつためにここに集っています。

今日この日、我々は長い間我々の政治を混乱させてきた狭量な不平や、見せかけの公約、報復、そして古びた教義を終わらせることを宣言します。

我が国は今なお若い国です。しかし、聖書にもあるように、子供じみたことはやめなければなりません。我々の不屈の精神、歴史の良きところを選び、世代から世代に受け継がれてきた崇高な理想という貴重な贈り物を再認識するときがきたのです。神が約束してくれた、すべての人は平等で、自由で、そして誰もが最大限の幸福を享受することができるという理想を。

アメリカの偉大さをあらためて見つめるとき、我々はそれが決して与えられたものではないことを知っています。それは、獲得しなければならないものです。我々の旅には近道も、妥協もありませんでした。それは、勤勉より娯楽を好み、富と名を売ることの快楽のみを求める臆病者が歩いてきた道ではありませんでした。むしろリスクをとって行動し、生産をし、中には名声を得た者もいましたが、多くは、労働を通して、繁栄と自由に向かう長く険しい道のりを、我々を導いてきた名もなき人々によるものだったのです。

我々のために、彼らは手にできるわずかな持ち物だけを手に、新たな生活を求め、海を渡ってやってきました。

我々のために、彼らは、過酷な労働条件の中で働き、西部を開拓し、あるいはむちの痛みに耐え、硬い大地を耕しました。

我々のために、彼らはコンコードやゲティスバーグ、ノルマンディー、そしてケサンで戦い、命を落としました。

彼らが、何度も苦しみ、自らを犠牲にして、手がすり切れるまで働いてきたからこそ、今我々はこうしてより良い生活が送れるようになったのでしょう。彼らは、個々人の望みの集大成、すなわち出自や富、そして党派の違いよりも偉大なものとして、アメリカを見ていたのです。

この旅を我々は今も続けているのです。我々は地球上で最も繁栄した力強い国家であり続けます。勤労者は、今回の経済危機以前と同じ生産性を維持しています。我々の精神は、そして我々の生産する物やサービスは、先週、先月、そして去年と同様に求められています。我々の能力は衰えてはいないのです。とはいえ、やり方を変えず、偏狭な利益に固執し、苦渋の決断を先送りする、そんな時代はもう確実に終わったのです。今日から、我々は立ち上がり、ほこりを払い、そしてアメリカを再生する仕事にあらためてとりかからなければならないのです。

我々が見回すあらゆるところに、なさねばならないことがあります。経済は迅速で果敢な対応を求めています。そう、我々はそれに挑むのです。新たな雇用を生み出すだけではなく、成長への土台を構築するために。道を造り、橋をかけ、電気やデジタルのネットワークを築き、ビジネスを潤し、人と人を結びつけるのです。科学を本来あるべき姿に戻し、技術の力で、医療の質を向上させ、コストを下げてゆきます。太陽と風と大地の力をもって車を動かし、工場を稼働させます。そして、学校や大学を新しい時代に見合ったものに変革してゆきます。すべてを我々は成すことができ、そして実践するのです。

さて、中には我々のこうした意欲に疑問を持つ人がいるでしょう。我々は、これほど多くの大きな計画に耐えられるシステムを持ち合わせていないのではと。そうした人々は忘れているのです。彼らはこの国が成してきたことを、共通の目的を持ち、勇気を持つことの必要性に気づいたとき、自由な人々が成し遂げてきたことを、忘れているのです。

シニカルに物事を見ている人たちは、自らの足元の大地が動いていることを認識していないのです。つまり、長い間我々が時間を費やしてきた陳腐な政争はもう当てはまらないということを見落としているのです。今我々が問いかけたいのは、政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、それがしっかりと機能しているかどうかなのです。各家庭がまっとうな賃金が保証される仕事や、我々が支払うことのできる医療や福祉、尊厳ある老後を送ることができるよう政府が動いているかどうかが問題なのです。答えがイエスなら我々は前に進み、ノーならその政策は終わりにしようではありませんか。私たち、公の資金を扱う者は、それを賢明に使い、悪弊を改め、業務を白日のもとで行う責任があります。なぜなら、それによりはじめて、国民と政府との間に不可欠な信頼関係を再構築できるからです。

市場が健全なのか病んでいるのかが問題なのではありません。市場は富を生み出し、自由を拡大する比類なき力です。ただ、今回の経済危機で、我々はしっかりと監視することを怠れば、市場がコントロールを失うことがあるということをあらためて気づきました。また、富者だけが優遇されていては国の繁栄は長くは続かないことを知りました。経済の成功は、単に国民総生産の規模によるのではなく、それがいかにあまねく享受されているかにかかってきました。そう、どれだけ意欲ある人々に、慈善心からではなく、機会を与えることができるのかにかかっているのです。それが、我々共通の利益につながる確実な道なのです。

国防問題についていえば、我々は、安全と理想のどちらをとるかという誤った選択を拒絶します。我が建国の父たちは、未曾有の危機に直面する中、法による統治と人権を保証する憲章を起草しました。その憲章はその後何世代もかけて血を流して広められてゆきました。その理想は今でも世界を照らしています。そして、我々は単に利己的な都合のために、その理想をあきらめるわけにはいかないのです。したがって、今日この就任式を見ているすべての人々、そして政府に、大国の首都から私の父が生まれたような小さな村に至るまで、アメリカは将来の平和と尊厳を求めるすべての国、男性、女性、子供、あらゆる人々の友人であり、再び引導の役割を果たす用意があることを知っていただきたいのです。

先人たちが、ファシズムや共産主義を屈服させたのは、単にミサイルや戦車によってのみではなく、頼もしい同盟国と不屈の信念があったからこそであることを思い出してください。彼らは、力だけが自らを守ったのではなく、ただ思いどおりに使えばよいと与えられたものでもないことを理解していました。そうではなく、力は慎重に行使することによって増すこと、すなわち安全は大義の正しさ、範例の力、そしてけんそん謙遜と自制を調整することからもたらされるのだということを知っていたのです。

我々は、この遺産を引き継いでいます。この原則に今一度立ち返ることによって、今我々を見舞っている、より大きな努力を必要とする、より多くの国々の協力と理解が求められる、新たな脅威に立ち向かっていくことができるのです。責任をもってイラクをイラク人の手に戻すプロセスを開始し、アフガニスタンには強固な平和を築き上げます。古くからの友、そして過去の敵とも手を携えて、核の脅威を緩和し、地球温暖化の恐れを軽減するためにたゆみなくとり組みます。我々の生き方を曲げることはなく、そして、それを守ることに迷いもしません。テロ行為を行い、無実の人々を殺りくすることによって目的を達成しようとしている人々に我々はこう言いましょう。我々の意志はより強固でそれを打ち砕くことはできないと。君たちは我々より長く生存することはできず、我々は君たちを打ち負かすと。

なぜなら、我々は、自らのパッチワークの遺産、すなわち多様性こそが我々の強みであって、弱点ではないということを知っているからです。我々は、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、そしてヒンドゥー教や無宗教といった人々で構成されています。あらゆる言語、文化、地球上のあらゆる場所からやってきた人々で構成されているのです。そして、我々は南北戦争や、人種隔離といった苦い水を飲み、暗黒の歴史から、より強く、より結束して立ち上がってきました。それゆえに、古き憎悪はいつか過ぎ去ることを信じています。部族間の境界線はやがて消え去り、世界はどんどん小さくなり、共通した人間性が現れてくるでしょう。その中で、アメリカは平和な新時代を導く役割を担わなければならないのです。

イスラム教を信じる皆さん。我々は、お互いの利益と立場を尊重し、新しい方策を模索します。紛争の種をまき、自らの社会の問題を西洋諸国に転嫁しようとする国々の指導者たち、あなた方は、国民が、あなたが何を破壊するかではなく、何を創造できるかをもって自らの指導者を評価するということを知るべきです。腐敗と謀略、反対意見を持つ者を黙らせながら権力に固執している人々は、歴史の誤ったところにいるのだということを知るべきです。しかし、もしあなたがたが握りしめた拳を開くのであれば、我々は手を差し伸べる用意があることをわかってください。

貧困に苦しむ国々の皆さん。我々はあなた方の農場を豊かにし、清らかな水が流れるようにし、飢えた体をいやし、ひもじさにさいなまれる心をいたわるために、あなた方と共に働くことを誓います。そして、我々と同じように、比較的豊かな国々は、もはや国境の向こう側の苦しみに無関心でいることは許されず、その影響を考えることなくして、世界の資源を消費してゆくことはできないのだとお伝えします。世界は変わったのです。ですから、それと共に我々も変化してゆかなければならないのです。

我々の前に続く道を思うとき、我々は、まさに今このときもはるかな砂漠を、遠い山々を警備している勇敢なアメリカ軍兵士のことを、つつましい感謝の気持ちを込めて思い出します。あらゆる時代を通してアーリントン墓地から聞こえてくる戦いに倒れた英雄たちのささやきのように、彼らも今何かを語ろうとしています。我々は、彼らが我々の自由の保護者だからというだけでなく、彼らが奉仕の精神を体現し、自身を超えた偉大な何かを求め、そこに意味を見いだそうとしていることに敬意を表します。今、新たな時代が開かれるこの瞬間に、我々すべてが抱かれなければならないのが、まさしくこの精神なのです。

なぜなら、政府がどれだけできること、やらねばならないことをするにせよ、この国が必要としているのは、究極的にアメリカ国民の信念と決意だからなのです。この最も暗い局面を乗り切るために必要なものは、堤防が決壊したとき、他人を自らの家に招き入れる心の温かさであり、友人が仕事を失うのを傍観するのではなく、自らの労働時間を短縮する労働者の滅私の気持ちです。それは、煙が充満する階段に突入する消防士の勇気であり、子供を育てる親の意志、そんな精神が、我々の運命を最終的に決めるのです。

我々の挑戦は新たなものかもしれません。この挑戦に立ち向かう手段も新たなものかもしれません。しかし、我々の成否のかかる価値観は、勤労と誠実さ、勇気と公正さ、寛容と好奇心、忠誠心と愛国心といった昔からのものです。これらが真理です。これらが、歴史を通して我々を前進させてきた無言の武器なのです。今求められているのは、こうした真理に戻ることなのです。今我々が必要としているのは、新たな責任感の時代なのです。一人ひとりのアメリカ人が、我々自身や我が国、そして世界に対する責務があることを認識しなければなりません。それは、いやいやながら引き受けるのではなく、困難な仕事に立ち向かうことこそ、精神を満たし、我々を特徴付けるものであるという確信のもとに、喜びをもって引き受けるべき義務なのです。

これが、市民であることの代償であり、約束なのです。

不確かな行き先を形作れと神が求めていることを知っている、これが、我々の自信の源なのです。

なぜあらゆる人種や信仰をもった男性、女性、そして子供がこの広大な広場に集い、共に祝うのか。なぜ60年前には地元のレストランで食事をすることも許されなかったかもしれない父親の子供が、皆さんの前で、今、最も神聖な誓約を行うことができるのか。これが、我々の自由と信念の意味するところなのです。

だから、この日をしっかりと共に胸に刻みましょう。我々は誰なのか、そしてどれだけ遠くまで旅してきたのか。アメリカ建国の年、最も寒かった月、建国の兵士たちの小さな集団は、凍てついた川の岸辺で消えそうなたき火に身を寄せ合っていました。首都は放棄され、敵は迫り、雪は血で染まっていました。独立革命の実現が最も疑わしく思えたあのとき。建国の父は次の文章を人々に読んで聞かせるように命令しました。

「未来の人々に語り伝えよう。厳冬のさなか、希望と美徳だけが生き残るとき、町々や村々から、共通の危機に揺り動かされて、我々は立ち上がったと」

アメリカよ。共通の危機に直面した、この厳しい冬の今、時を超えて響いてくるこの言葉を思い出そうではありませんか。希望と美徳をもって、凍りついた流れに再び立ち向かいましょう。そしてどんな嵐に見舞われても耐え抜いてゆきましょう。子供のそしてまたその子供にも、我々が試練に見舞われたとき、この旅路を放棄することを拒絶したと伝えられるようにして。後戻りも尻込みもしなかったと。地平線にしっかり目を据えて、神の加護を受けながら、自由という偉大な贈り物を受け継ぎ、次の世代の人々にしっかりと手渡したと語られてゆくようにしようではありませんか。 ありがとう。皆さんに、そしてアメリカ合衆国に神のご加護がありますように。

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『4年ぶりに本音を語ったのか?
オバマ大統領の就任演説』

(山久瀬洋二ブログより)

異文化ビジネスコンサルタント・山久瀬洋二ブログ

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